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【元厚生次官ら連続殺傷】論告要旨(下) 「極悪非道で一分の同情の余地もない」(産経新聞)

 ■計画性

 小泉被告は犯行の1年以上前から下調べを始め、殺害する相手を絞り込んでいき、凶器や防具を買い集めるなど、極めて周到に準備を進めた。

 個々の殺害は、対象者が在宅していそうな夕刻に宅配便を装って自宅を訪れ、家族もろとも殺害した。殺害後、配達荷物に見せかけた箱の中から衣服などを取り出して着替えて立ち去るという計算し尽くされた計画を立てた。

 全体の構想としては、初日は強盗の仕業に見せかけて捜査を撹乱(かくらん)し、2日目は3軒(最終的には2軒)の元厚生事務次官宅を立て続けに襲撃して、連続犯であると気づかれる前に大きな成果を挙げ、3日目は、元厚生事務次官宅以外の人を襲撃することを計画し、犯行後、警察に出頭することまで計画した。

 ■計画の危険性

 実際に小泉被告が襲撃したのは山口剛彦元次官宅と吉原健二元厚生次官宅の2軒であり、殺害したのは山口元次官夫妻の2人だが、もっと多くの人を殺害する計画を立てていた。

 最終的に襲撃しようとしていたのは4軒で、2軒に終わったのは、計画に誤算が生じたからにすぎない。

 小泉被告自身は、これだけの結果を生じさせながら、「落第」などと評している。計画通りならば、もっと多数が命を失っていた可能性が高い。

 小泉被告は10人前後を殺すつもりだったと供述し、現に多数の凶器を準備しており、本件を2人殺害、1人に重傷を負わせただけの事件ととらえてはならない。

 ■情状の悪さ

 小泉被告は、吉原靖子さんを取り逃したが、それでも横尾和子さん(元社会保険庁長官)宅の襲撃はあきらめず、犯行の機会をうかがっていた。

 その後、自己の行為を喧伝するかのようなメールをマスコミに送りつけ、警視庁に出頭した。逮捕後も一貫して自己の行為の正当性を主張し続け、反省の色はみじんも見られない。

 それどころか、被害者について、死者を冒涜(ぼうとく)し、家族らの思いを逆なですることを平然と唱えている。そして、いまだに殺意を捨てていない。

 ■社会的影響の重大性

 本件は元厚生事務次官を狙う連続殺人事件として、大々的に報道され、社会に大きな衝撃を与えた。証人出廷した横尾さんも述べるように「穏やかに暮らす人々が、突然、復しゅうのため、大儀のためと襲撃を受けることがまかり通れば、社会の安寧は覆される」。今のところ模倣犯は見あたらないが、小泉被告がいまも自己正当性を喧伝していることを併せて、大きな社会的影響を与えている。

 被害者宅はともに閑静な住宅街にあり、地域住民に与えた衝撃も大きい。さらにただの公務員であり、その家族であることを理由として命を奪われたことは、社会や国のため生きてきた人たちへの冒涜である。

 吉原さんは法廷で「これまでの人生を否定された」「社会と国のため一生懸命仕事をし、事務次官になったためにこういう目にあった」と証言している。公務員や公務員になろうという人に影響を与えかねない犯罪だ。

 ■動機の身勝手さ

 小泉被告は本件を飼い犬のあだ討ちと正当性を訴えるが、元厚生事務次官であれば誰でもと考え、その家族の命まで奪っていることや、殺処分と無関係の人物まで狙ったことから、実態は、達成感を得るための無差別な連続殺人に過ぎない。小泉被告は被害者宅襲撃の動機を「飼い犬の仇討ちで、動物の命を粗末にすれば自分に返ることを思い知らせるため所管官庁のトップだった元厚生事務次官を家族ごと殺害しようと考えた」と供述しており、復讐心のようなものがあったことは否定できない。

 しかし、この動機は犯行を正当化しうるものではなく、同情する余地もない。飼い犬が殺処分されたと信じて子供心に傷ついたとしても、人を殺して仇を討つことが正当化されるはずもなく、まして狂犬病予防法の所管が旧厚生省という理由で、歴代の厚生事務次官を標的に選び、家族ごと殺害することに正当化の余地はない。

 さらに動機は小泉被告がいうほど純粋でもない。殺処分情報を目にするごとに復讐心を募らせ、殺処分制度と運用者を「邪悪」「マモノ」などと決めつけているが、犬猫を救うボランティア活動などをしておらず、動物愛護精神は微塵もない。

 しかも飼い犬が殺処分されたのか確認されておらず、確認しようとした形跡もない。近年は環境省による殺処分の方が圧倒的に多いが、小泉被告はこの点を一顧だにしておらず、標的を選ぶに当たり、地理的に都合の良い者を選んだだけである。

 さらに、歴代厚生事務次官の命を狙う一方、工事の苦情を聞いてもらえなかったという理由で建設会社の社長の命を狙い、交通事故示談交渉が気に入らないという理由で損保会社の会長・社長の命を狙い、横尾元最高裁判事の命を狙うなどしている。横尾判事辞任のニュースを見るや、本当に国民審査の対象となるのかということも調べず、国民審査を逃れるために辞任したなどと決めつけ「ターゲット」としたもので、このような経緯からは、何が何でも大物を組み入れたいという安易さが認められる。

 これらの人の命を狙った理由は、厚生事務次官経験者らを殺せば死刑になるのだから、腹の立つ相手を一緒に殺そうという身勝手なものだ。結局のところ、殺害自体で達成感を得るとともに、自己の「正論」を唱えながら、人生に幕を下ろしたいという欲求が強く働いている。

 このことは、マスコミにメールを送りつけたり、出頭予告した上で警視庁本庁舎に車を乗り付けたり、法廷で正当性を述べるなどしていることからもうかがわれる。

 この点について、井原裕医師(小泉被告の精神鑑定を担当した、獨協医大越谷病院の精神科医)は、法廷で、行政や一流企業に対する不満が事件と無関係と考えるべきでないなどとし、死ぬことを覚悟した上での自爆テロ類似の側面があることを証言している。

 以上のように、小泉被告が「仇討ち」などと主張しながら、こだわるべき部分にこだわらず、その上、犬とは全く無関係な犯行まで付け足している点は、達成感を得たいということにつきていることを如実に表している。要するに、人生の最後を達成感で飾りたいがための無差別に近い連続殺人である。

 動機は極めて身勝手で理不尽なことこの上なく、全く酌量の余地はない。

 ■矯正の余地なし

 小泉被告を反省させて更生させることは不可能である。小泉被告は一貫して自己の行為の正当性を訴え、「心の中が人間のエゴで満たされている人間には私のことは決して理解できない」などと述べている。

 本件各犯行は、小泉被告の中で動かし難い信念と化しており、信念に疑問を持つことは自己否定につながるものであり、自己の行為を真摯(しんし)に顧みるということは期待できない。

 小泉被告に矯正の余地がないことは明白である。

 小泉被告は「現世でやり残したことはありません」と述べているものの、「決起は未完成」と言い、「生まれ変わったらやります」と述べるなど、元厚生事務次官への殺意を捨てていない。

 人生に幕を下ろそうと考え出頭した小泉被告が、期待を裏切られたとすれば、犯行の続きに向かうほかないのは明白で、その場合の標的は歴代厚生事務次官のみにとどまらず、歴代局長らにも及ぶと考えられる。

 ■被害感情の強さ

 亡くなった山口元次官夫妻の長男は、意見陳述の中で、「本件は厚生事務次官連続殺傷事件と報道されます。しかし、私にとってはごく普通の両親です」「孫の顔も見せたかった。しかし、その機会はもうありません」と述べている。

 次男は「父はようやく訪れた母との静かな時間を楽しみにしておりました」「母は自分のことを後回しにして家族に尽くしてくれる人でした。がんに犯されながらも父に添い遂げた母を誇りに思います」と述べている。

 山口さん夫妻は家族とともに誠実に、懸命に生きた普通の善良な夫婦である。

 にもかかわらず、2人は単に元厚生事務次官とその妻と言うだけで殺害された。理不尽な形で、両親が同時に命を奪われたのであるから、遺族の強い憤りは当然である。

 長男と次男は意見陳述で、法廷での被告の態度に、強い憤りとやりきれなさを述べているが、当然である。両親の命を同時に奪った男があのような態度を取れば、遺族の心は踏みにじられたに等しい。

 長男も次男も極刑を求めているが、その言葉はきわめて重く受け止めなければならない。

 吉原靖子さんは「平和な生活は戻らない。障害も抱えながら私は一生暮らさなくてはならない。悔しさと憤りで一杯です」「理不尽で残忍な手口を許すわけにはいきませんので、一番重い刑でお願いします」と述べ、やはり極刑を求めている。

 吉原健二さんも「理由にならない理由で無差別で複数、その配偶者まで殺そうとすることは許されないと思います」と述べ、「極刑以外にはない」と述べている。

 これら4人の声は十分に酌まれなければならない。

 ■求刑

 無差別的に2人を殺害し1人に重傷を負わせた前代未聞の連続殺人事件。極悪非道で一分の同情の余地もなく、遺族は極刑を望んでいる。最高刑を持って望む以外になく、被告が自供したことや、前歴がないことをかんがみても、自らの命をもって償う以外にない。よって被告を死刑に処することが相当である。

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